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「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













米軍撤退後のアフガン支配に乗り出す中国



タリバンと同盟し中東支配を目指す中国共産党


[2021.8.10]




7月28日、タリバンの幹部代表団と会談した中国の王毅外相
PHOTO(C)看中国


テロ組織タリバンによって再び支配されるアフガン


 今から42年前の1979年12月、ソビエト連邦はアフガンに侵攻し、傀儡政権を樹立してアフガン全土の支配を試みた。だがその後、ソ連は膨大な兵力を投入し続けたにも関わらず、抵抗するイスラム武装勢力を抑え切る事が出来ず、10年後にはアフガンからの完全撤退を余儀なくされた。

 このアフガン侵攻が、ソ連崩壊の引き金になったとも言われている。

 そして現在では、米国のバイデン政権がアフガンからの米軍撤退を着々と進めており、8月末には撤退が完了する見込みである。

 オバマ政権による「リバランス政策」以来、米国は中東地域への軍事的プレゼンスを低下させ、重点をアジア太平洋地域にシフトさせようとしてきた。バイデン政権もその路線を引き継ぎ、「中国との競争」という大義名分を掲げてアフガンからの撤退を推進した。

 ベトナム戦争よりも長い20年間という長期にわたって続けられた泥沼のアフガン戦争を戦ってきた米国は、最大で10万人規模の兵力を現地に張り付け、90兆円以上の巨費を投じてきた。

 その間に、2300人以上の米軍兵士が戦死し、アフガン治安部隊の約7万8千人が死亡し、タリバン戦闘員8万1千人以上が殺害され、アフガンとパキスタンの民間人4万7千人以上が戦闘に巻き込まれて犠牲になった。

 また、戦地で死傷した兵士に対する補償金や年金、帰還した兵士のPTSDのケアなどにも莫大なコストがかかり、全てを含めるとアフガン戦争の総費用は2兆2600億ドル(約248兆円)を超えるとの試算もある。

 これでは、米国民がこれ以上の戦争継続を望まないのも当然と言えよう。英「エコノミスト」誌が今年4月に実施した調査では、米国民の58%が撤退に賛成した。

 このように、これまでベトナム戦争やイラク戦争を経験してきた米国では、自国民の血が流れる戦争には厳しい目が向けられるようになった。

 今後は中東に限らず、米軍の海外派兵は期待出来ないであろう。

 2013年に当時のオバマ大統領が、米国は「世界の警察官」を辞めると宣言してから8年後、バイデン政権の米国は本当に「世界の警察官」を辞めることになった。

 ただし米軍撤退によって生じる「力の空白」が、今後のアフガン情勢の混乱を招く事は確実である。

 かつてアフガンの実権を掌握していたタリバンは、2001年に米軍および有志連合による武力攻撃によって政権の座を追われたが、現在タリバンは、米軍撤退による「力の空白」に乗じるかのようにアフガン国内各地で攻勢を強め、支配地域を着実に拡大している。

 最早、アフガン政府軍がタリバンを軍事的に抑えることは不可能な状態にある。

 これまでアフガン政府がある程度の安定を維持出来たのは、制空権を握る米国の支援があった為である。ドローンや武装ヘリ、重高射砲などの兵器を擁する米軍の制空能力に、タリバンをはじめとする反政府武装勢力は全く太刀打ち出来なかった。

 しかしながら米軍が撤退すれば、アフガン政府の軍事的優位は崩れ去る。

 今夏の攻勢でアフガンの3分の1の地域を支配下に収めたタリバンは、さらに同国北東部のバダフシャーン州を一気に制圧し、山岳地帯にある中国・新疆ウイグル自治区との境界線にまで勢力圏を拡げた。

 モスクワを訪問したタリバン代表団は、7月上旬に「アフガン全土の85%を支配した」と宣言した。またタリバンは声明の中で、「外国人や外国のNGOには攻撃しない」とし、諸外国との関係構築の姿勢を示している。

 米情報機関は、「米軍撤退後、タリバンの攻勢でアフガン政府が半年から1年で崩壊する」との予測を立てている。

 では、もしタリバンがアフガン政権を掌握した場合、諸外国にとってどのようなリスクがあるのだろうか。

 先ず、宗教勢力にとって「国境」は存在しない。そもそも「国家」とは世俗権力に過ぎず、世俗権力の境界線に過ぎない国境に意味は無いと彼等は考えているからである。

 タリバンはイスラム教原理主義組織である。従って、タリバンの活動範囲が、今後アフガンの国境内部で留まる事はあり得ない。

 すでにタリバンは、パキスタンやイラン、タジキスタンなどにも支配領域を拡大している。特にパキスタンにおいては、パキスタン・タリバン運動(TTP)という組織を通じて勢力を拡張している。

 さらにタリバンの一派は、イスラム国を支持する武装勢力に流れ込んで戦闘を続けている。また、アルカイダと密接な関係にあるタリバンのメンバーも多く、今後はアルカイダやイスラム国との連携を通じて中東全域でテロ活動が活発化する可能性がある。

 オースティン米国務長官は、6月中旬に上院の公聴会で「アフガンからの米軍撤退後、2年程度で国際テロ組織アルカイダなどが復活する可能性がある」と発言した。

 壊滅状態のアルカイダやイスラム国といった様々なテロ組織が、今後タリバン支配のアフガン国内で力を蓄え、再び強大化して周辺諸国を脅かす事態は十分に予想される。

 7月中旬、英国の諜報組織MI5は、
「米軍や外国軍がアフガンから完全撤退すれば、同国の治安が一層悪化するだけでなく、イスラム過激思想に感化された英国人がアフガンに渡り現地のテロ組織に参加し、帰国して国内でテロを実行する恐れがある」
「アルカイダなどアフガンで活動するイスラム過激派は、米軍や外国軍の完全撤退を自らの勝利と認識し、ネット上での広報活動を活発化させ、それによって英国内に潜む過激派分子が刺激を受け、単独的にテロを起こす恐れがある」
といった懸念を表明した。

 なおこのリスクは英国のみならず、他の先進諸国にも当て嵌まる事を見逃してはならないだろう。



中国共産党とタリバンによる「悪魔の同盟」


 世界にとって国際テロ組織よりも脅威となるのが中国である。

 米軍撤退によって生じた「力の空白」に乗じて、今や中国が虎視眈々とアフガン支配の機会を窺っている。

 もともと中国は、「一帯一路」を通じて中央アジアに多額の資金を投資しており、中国外務省は以前、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」をアフガンにまで延長する可能性についても言及していた。

 米国防総省などの調査によれば、アフガンにはコバルトや金、リチウム、レアアースなど100兆円規模の資源が埋蔵されているという。中国は当然ここに着目しているはずである。

 また中国にとってアフガンは「一帯一路」の戦略的要衝である。もともとアフガンは地政学的にも重要な位置にある為、かつてソ連が武力侵攻したほどである。

 さらに中国としては、新疆ウイグルの独立運動を封じ込める為にも、新疆ウイグル自治区の西側に接するアフガンを抑えておく必要がある。

 中国政府はすでにタリバンとの協議を始めている。

 王毅外相は7月28日、タリバンの幹部代表団と天津市で会談した。タリバン側からは創設者アブドゥル・ガニ・バラダル師をはじめ、タリバンの宗教委員会や広報委員会のトップも出席した。

 そもそもタリバンは、かつて国際テロ組織の指導者ウサマ・ビン・ラディンを保護したり、バーミヤンの仏教遺跡群の石像を破壊した事でも知られ、国際的に非難されているテロ組織である。

 また、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんを銃撃したのは、「女子教育」を真っ向から否定するタリバンの主張に共鳴したパキスタン・タリバン運動のメンバーであった。

 現在、タリバンの支配地域では、すでに反対派の殺害や女性への抑圧等が行われているとの報道もある。イスラム法を自分に都合よく解釈して人々を支配するタリバンの台頭によって、同国の人権状況は危機に陥っている。

 停戦交渉等のケースを除けば、大国の外相が、このようなテロ組織と直接外交交渉をする事は極めて異例である。

 王毅外相はタリバン幹部との会談の中で、アフガンを「中国最大の隣国」と位置づけ、同国の未来は「アフガン国民の手に」委ねるべきだと強調した上で、タリバンを「アフガンの重要な軍事的、政治的勢力である」とし、「アフガンの平和と和解、再建プロセスにおいて、タリバンが重要な役割を果たす事を期待する」などと述べた。

 さらに王毅外相は、米軍やNATO軍のアフガン撤収は、「米国のアフガンに対する政策の失敗」であると同時に、「アフガンの安定化と発展の為の好機」と語った。

 そして中国外務省公式サイトには、王毅外相がタリバン幹部らと記念撮影している写真が掲載された。

 アフガン現政権の打倒を目指す反政府勢力であるタリバンに対して、中国当局が極めて手厚く友好的に対応し、外交代表団と同じ扱いを与えた事の意味は大きい。

 タリバンの報道官であるスハイル・シャヒーン氏は、会談後、メディアのインタビューで、タリバンは中国を「アフガンの友人」と見なしており、出来るだけ早く北京(=中国政府)と共に「国の復興を支援したい」と語った。そして、タリバンは北京政府にアフガンへの投資拡大を呼びかけ、将来、中国の投資家や労働者がアフガンに戻って来た場合、タリバンが彼らの安全を守ることを約束したという。

 また、タリバンは「北京による新疆ウイグル族への扱いに介入しない」と公言した。中国が新疆ウイグル問題で世界中から非難を受けている中、タリバンのこの発言は重大な意味を持つ。

 こうしたタリバンによる「媚中」の姿勢を受けて、中国共産党系の「環球時報」をはじめとする多くの中国メディアは、「タリバンと中国の関係は非常に友好的だ」と称賛するコメントを掲載した。

 最早アフガン国家がタリバンに乗っ取られる事は時間の問題であるが、タリバンのようなテロ組織が作る国家と覇権主義国家の中国とが「同盟」して築かれる国際秩序とは、果たして如何なるものだろうか。

 もともとタリバンは「イスラム原理主義」を標榜してきたはずであるが、中国に阿る余り、中国共産党による新疆ウイグルのイスラム教徒に対する迫害を容認するなど、媚中も度が過ぎていると言えよう。

 タリバンが中国との交渉において、「北京(=中国政府)による新疆ウイグル族への扱いに介入しない」などと、新疆ウイグルのイスラム同胞を見殺しにする選択をした事は、そもそもイスラム原理主義に反する行為ではないのか。イスラム法に照らしても、タリバン幹部は死刑に相当するはずである。

 因みに情報筋によれば、アフガンの破壊されたインフラを再建するという名目で、中国からタリバンに多額の資金を供給する計画があり、その資金は中国の同盟国であるパキスタンを経由してタリバンに提供されるという。

 そして中国はタリバンに資金援助する見返りとして、新疆ウイグル自治区の東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)との関係を断ち切るようタリバンに求めており、タリバン側もそれを了承したという。

 ETIMは新疆ウイグルの独立を唱えるイスラム系組織であり、中国当局はETIMを「テロ組織」と名指しして壊滅を図っている。

 中国当局が、イスラム教徒のウイグル族100万人を強制収容所に拘束しているのも、ETIMへの対策が目的の一つであるという。

 また中国の王毅外相は今年5月、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンなどの中央アジア諸国の外相に対し、「ETIMなどの過激主義、テロ、分離主義という3つの邪悪な勢力を徹底的に排撃しなければならない」と呼び掛け、ETIMの壊滅に協力するように圧力をかけていた。

 このように中国当局がETIM対策に躍起となっている中、中国マネーに目の眩んだタリバンが、新疆ウイグルのイスラム同胞を裏切って、中国当局に「臣従の礼」をとったのである。

 こうしたタリバンの媚中の態度を見る限り、近い内にアフガンでタリバン政権が成立すれば、アフガンが中国の「衛星国」になる事は確実である。

 そして、アフガンの国家権力を掌握したタリバンは、同じくスンニー派のアルカイダやイスラム国を支援して、中東全域に「革命の輸出」を始める事になるだろう。資金は中国からいくらでも出る。

 かくして中国は、一帯一路の要衝であるアフガンを拠点に、中東全域の「衛星国」化に乗り出す事になる。

 今年2月にクーデターによって中国の「衛星国」と化したミャンマーの事例を見ても分かるように、中国とその「衛星国」に共通の要素は、いずれも暴力によって国民が支配されている国であり、「人権」や「法の支配」が全く存在しない国であるという事である。

 先月バイデン大統領は、アフガン撤退について、「アフガンの未来はアフガン人の手に委ねられている。米国は中国に対峙しなければならない」との声明を発した。

 しかしながら、米軍のアフガンからの撤退が、結果的に中国の膨張を促進し、中国の「衛星国」を増加させるだけであるとすれば、バイデン政権の唱える「対中包囲網」の戦略が果たして有効なのか疑わしい。

 アフガンからの米軍撤退という選択が、米国民の総意であれば仕方が無いとしても、それが世界にとっては大いなる悲劇の始まりとなる事は間違いないだろう。












《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
〒100-0014
東京都千代田区永田町2-9-6
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TEL: 03-5501-3413