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「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













ミャンマー軍事クーデターを糾弾する


中国の野望に絡め取られるミャンマー


[2021.2.10]




7日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで行われたクーデターへの抗議デモ
PHOTO(C)REUTERS

ミャンマー政変に反応する国際社会


 去る2月1日、ミャンマーで軍事クーデターが発生し、 ミン・アウン・フライン国軍総司令が立法・行政・司法の全権を掌握し、1年間の非常事態宣言を行った。

 国民民主連盟(NLD)党首で民主化のシンボルであったアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相やウィン・ミン大統領をはじめNLD所属の政府幹部ら数十人がミャンマー国軍により逮捕拘束され、24人の閣僚、次官らが罷免された。

 国軍はフライン総司令官を議長とする「行政評議会」を設置し、閣僚を任命するなど政権の既成事実化を進めているが、国内の抵抗や国際社会の非難は強まっている。

 ミャンマーの市民達は、クーデター直後から、自宅や路上で鍋などの金物を叩きながら抗議を始めた。抗議は徐々に激しくなり、6日と7日には最大都市ヤンゴンの中心部をシュプレヒコールを上げて行進した。デモは第2の都市マンダレーや首都ネピドーにも波及し、市民の抵抗は大きな潮流となっている。

 また今回のミャンマー国軍によるクーデターに対し、国際社会は反発を強めている。

 在ミャンマー米大使館は抗議行動に支持を表明し、国軍に「権限の放棄と民主的に選ばれた政権の回復、拘束された人達の解放」を要求する声明を発表した。

 国連人権高等弁務官事務所は「デモ隊に実力行使をしてはならない」と警告し、「表現の自由を守るため、インターネットは全面的に回復すべきだ」と訴えた。

 クーデターを起こした国軍のフライン総司令官は、スー・チー氏が率いるNLDが国軍系政党に圧勝した昨年11月の総選挙で不正があったと主張し、クーデターは「避けられなかった」と正当化しているが、もし本当にそうであるならば、司法で堂々と争えば良い問題であって、武力行使など問題外である。

 一方、中国当局は西側諸国の反応を伺いながら、あくまで静観に徹しているスタンスであるが、今回のミャンマーの政変を歓迎している事は間違いない。

 政変当日、中国外交部の定例記者会見において汪文斌報道官は、「中国はミャンマーの友好的な隣国であり、ミャンマー各方面が憲法と法律の枠組みのもと妥当に対立を処理し、政治と社会の安定を維持するよう求める」とのコメントを出し、ミャンマー国軍や軍事クーデターに対する非難は一切しなかった。

 また中国国内での論調としては、先般の米大統領選挙の混乱に対する時と同様、今回のミャンマーの政変も、「民主主義の限界」を露呈した事象として、中国の体制やイデオロギーの正しさが証明されたと解釈している。

 中国共産党系の新聞「環球時報」は、「政治改革による表面的な繁栄は脆弱である。ミャンマーの困窮は、政治改革では深層の問題を解決するのに十分な力にはなり得ず、またこの国の政治的不安定さを回避する担保にもならなかった」とし、これまでのミャンマーの民主改革や普通選挙制度への懐疑を示している。

 このように、普通選挙や民主主義が欠陥だらけである事を強調することにより、中国共産党は、香港の民主派弾圧も正しかった事を暗に主張しているのである。



地政学的要衝としてのミャンマー


 中国にとってミャンマーは、一帯一路戦略における「海のシルクロード」の重要拠点である。

 ミャンマーは、中国がマラッカ海峡を通らずにインド洋に出るための軍事拠点となり得る。また、中東からのエネルギーを安全に輸送する上での生命線となる。

 さらにミャンマーは、地政学的にインドに対する牽制可能な重要な位置を占めている。

 こうした事から、中国はミャンマーの「属国化」を目指してきた。

 中国にとって都合が良い事に、ミャンマー国内のいずれの勢力も、全て西側諸国に対し不信感を抱いている。

 ミャンマー国軍は言うまでもなく、ロヒンギャ難民への迫害問題で西側諸国から激しいバッシングを受けたスー・チー氏やその支持勢力も、今では西側諸国との確執が生じている。

 西側諸国から非難された国は、必然的に中国に頼らざるを得ないようになる。

 そのため、今ではミャンマー国内のどの勢力が国家を統治しても、ミャンマーが中国の世界戦略に協力させられる状況は変わらない。

 これまでミャンマーは、民主政権下において中国の「協力」によって、西部ラカイン州チャウピュー経済特区を開発して深海港を建設し、また港から中国の雲南までをつなぐ天然ガス・石油パイプラインを開通させてきた。

 ただし中国共産党にとっては、西側の息のかかった民主派勢力よりは、民主派勢力を相手に長年闘ってきたミャンマー国軍の方が遥かに都合が良いはずである。

 中国はインドとの国境における緊張が高まる中、ミャンマー国軍との関係を重視している。

 また中国は、ミャンマー国軍への最大の兵器供給元である。過去5年以上にわたり、ミャンマー国軍の武器や兵器の6割以上は中国からの輸入である。

 このように、中国とミャンマー国軍との関係は深い。

 そのため、中国が今回の軍事政変を事前に察知した上で静観していた可能性は十分あり得る。

 1月12日、中国の王毅外相が、ミャンマーのミン・アウン・フライン国軍総司令と会談した際に、王毅外相は「双方のイデオロギーは最も重要な紐帯である」と発言したという。

 ミャンマーあるいはミャンマー国軍が共産主義イデオロギーを奉じる事はあり得ない為、ここで王毅外相が述べた「イデオロギー」とは、広い意味での「反民主主義」あるいは「権威主義」と解釈できる。

 習近平は、「ポストコロナ時代」を視野に中国共産党を中心とする新世界秩序を目指しているが、建党百周年の2021年は、何としても「中国共産党のイデオロギー勝利」を全世界にアピールしたいはずである。

 そうした中、今回のミャンマー国軍による政変は、中国共産党にとっては大いなる僥倖となるだろう。

 2008年のリーマンショック以降、世界各地で頻発した左右のイデオロギー対立や政治的混乱は、「グローバル資本主義」や「民主主義」の欠陥や限界を顕在化させてきた。

 そうした混乱の世界の中で中国が台頭し、米中新冷戦が開始された。

 米中新冷戦とは、自由主義社会と「国民監視の管理全体主義社会」との対立であり、経済的には自由貿易主義と「国家主導の社会帝国主義」との対立でもある。

 そうした新冷戦下、ミャンマーの新軍事政権が中国の後押しによって政治的に安定し、経済的にも発展したならば、中国式の体制とイデオロギーの正しさが証明されたとして、世界に与える影響は大きいであろう。



「内政干渉を許さない」という中国の詭弁


 中国政府は、 チベット問題やウイグルなどにおける独立運動や、国内の言論の自由を求める中国民主化運動や香港民主化運動への弾圧に対する欧米での批判に対して、「内政干渉」であるとして常に反駁しているが、中国当局による「内政干渉」という用語の使用法には、国際法上の根拠は全く無い。

 そもそも国際法における「内政不干渉」の原則というものは、「自決権の尊重」と一体のものである。

「自決権の尊重」が、別の表現では「内政不干渉」となるのであって、中国のように他民族や地域の「自決権」を侵害しながら「内政不干渉」を主張するのは、根本的に筋違いなのである。

 中国共産党による世界支配を目指している中国が、国際法を故意に歪めて自己正当化を図るのは必然であるが、国際社会はこうした詭弁に惑わされず、無法状態を決して放置してはならない。

 最早中国は、国家としては近代法治主義国家以前のレベルであり、「犯罪国家」として定義し直す必要があるだろう。

 今回のミャンマー政変は、単にミャンマー一国の問題ではない。

 ミャンマーの新軍事政権を認める事は、香港の民主派弾圧を認めることであり、チベット、新疆ウイグル、内モンゴルの弾圧を認めることでもある。

 現代は、世界が無法な中国式のイデオロギーで支配されるか、人権を尊重する世界になるかの分岐点に差し掛かっている。










《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




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《連絡先

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