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安倍首相辞任と対中問題について


自由世界の一員として如何に振舞うべきか


[2020.9.1]




記者会見で辞任の意向を表明する安倍首相 (8月28日)
PHOTO(C)Getty Images



安倍内閣の功罪


 前稿では、媚中外交で亡国の道を歩む安倍内閣の退陣を訴えたが、早々に実現の運びとなった。

 8月28日、安倍晋三首相は首相官邸で会見を開き、辞任の意向を表明した。通算在職期間で桂太郎首相を上回り、連続在職期間でも佐藤栄作首相を抜く憲政史上最長政権であった。

 しかしながら、通算で8年以上にも上る執政において、安倍首相の功績と呼べるほどのものは特に無く、歴史に残るのはその在職期間の長さだけであろう。

 アベノミクスは不発に終わり、いくら「異次元の金融緩和」を続けたところで、肝心の国内総生産(GDP)は延々と横這いを続けるのみで、実質的な経済成長は起きなかった。一方、消費は低迷を続けていたにも関わらず、「雇用」のみが伸び続けるという不自然な統計が発表された。

 雇用が増加しているにも関わらずGDPが増加しない状態とは、典型的なデフレ経済であり、形を変えた「貧困の分配」に他ならない。

 アベノミクス開始時の2013年以来、安倍政権は、「景気は緩やかに回復しつつある」あるいは「デフレから脱却しつつある」などといったキャンペーンを繰り返し、国民を騙し続けてきたが、ようやく2018年10月になって内閣府が「景気回復は終わった」と発表せざるを得なくなり、アベノミクスは終焉した。

 結果的にアベノミクスは、「金融緩和と財政出動だけではデフレを克服出来ない」という重要な事実を証明しただけであった。

 失敗したのは経済政策だけではない。

 外交においては、「一帯一路への協力」を中国に約束するなどの媚中外交によって、自由世界における日本の国際的信用を失墜させ、国家を存亡の危機に陥れた。

 さらに習近平国家主席の国賓訪日にこだわった結果、入国制限の水際対策が遅れ、コロナ禍を拡大してしまうという大失態を犯してしまった。

 また、安倍首相が就任当初から最も力説していた憲法改正の課題は、手付かずのまま放置され、今や何事も無かったかのようにされている。

 辞任会見において、記者から「安倍政権のレガシーは?」と問われた際に、安倍首相は「私が言うべき事ではなく、国民の皆様が判断する事」と答える場面があったが、確かに自ら公言できるほどのレガシーは何一つ無かったと言える。

 亡国の道を歩む安倍内閣の退陣は歓迎すべき事ではあるが、後任の内閣が安倍政権の政策をそのまま引き継ぐようでは元も子もない。

 とりわけ最大の親中派勢力である二階派が影響力を持つ新内閣が成立すれば、対米関係の悪化は避けられない。

 国民の生命と安全にとって重要な事は、今後の政権の外交政策である。



米政府高官の台湾訪問


 8月10日、台湾を訪問中の米国のアレックス・アザー厚生長官は、総統府を訪れ、蔡英文総統と会談した。

 アザー長官は、米国が1979年に台湾と断交して以来、台湾を訪問する最高位の高官であり、米国外交の大きなメッセージでもある。

 中国は各国と国交を結ぶ際に、中華人民共和国を唯一の合法的な政府だと認めることを条件としていて、台湾と断交した後も台湾との経済や文化などの交流は認める一方、政府高官の往来など政治的な交流は認めていない。

 しかしながら2018年、米国と台湾の高官同士の往来を促進する「台湾旅行法」が米上下両院で可決され、今回のアザー長官の訪問に繋がった。

 会談の冒頭でアザー長官は、先月亡くなった李登輝元総統に哀悼の意を表した上で、「台湾の新型コロナウイルスの対応は世界で最も成功したものだ。今回の訪問でわれわれが共有する民主的な価値観が、どう役立ったか学びたい」と述べた。

 米トランプ政権は、新型コロナウイルスへの対応を巡って国内で批判に晒される中、「感染拡大の責任は中国やWHO(=世界保健機関)にある」と非難する一方、台湾の感染対策を讃え、WHOの年次総会へのオブザーバー出席をも強く求めてきた。

 米国は、ニクソン政権以来、歴代政権が取ってきた中国への「関与政策」をやめて、今後は対決姿勢を強めていくという方針に切り換えている。

 米トランプ政権は、中国に対して強硬な姿勢をとる中、台湾との関係を強化しており、アザー厚生長官を台湾に派遣することで、米国と台湾の高官の往来に反発する中国を強く牽制する狙いもあった。

 こうした動きは、今に始まった事ではない。

 2016年11月の米大統領選挙で当選したトランプ氏は、まだ就任前の12月に、台湾の蔡英文総統と異例の電話会談を行って経済や安全保障の緊密な関係を確認した。

 就任前の米国の次期大統領が、台湾の総統と電話で会談したのは、史上初の出来事であった。

 トランプ政権の米国は台湾に対し、2019年7月には、戦車108両、約2400億円相当の売却を決めたのに続き、8月には新型のF16戦闘機66機、約8500億円相当の売却を決定した。

 また今年3月には、台湾と外交関係を持つ国との関係維持や台湾の国際機関への参加を支援する法案を可決し、トランプ大統領の署名で成立させている。

 そして今年5月には、ポンペオ国務長官が再選された蔡総統の2期目の就任式を祝う声明を発表した。米国の国務長官が、台湾総統の就任式に合わせて声明を発表するのは初めてである。

 さらに米国防総省は、台湾周辺での中国軍の活発な動きに対抗する形で、海軍の艦艇に台湾海峡を通過させたり、空軍の輸送機に台湾上空を飛行させるなど、台湾周辺への軍の派遣のペースを加速させている。

 台湾の統一を目指す中国は、台湾に関する問題について、一切譲歩することができない「核心的利益」に関わると位置づけていて、米中関係においても「最も重要かつ敏感な問題だ」としている。

 今回のアザー厚生長官の台湾訪問について、中国外務省の報道官は「アメリカと台湾との公的な往来に断固反対する。アメリカの間違った行動には強い報復措置を取るだろう」などと強く反発している。



チェコ上院議長とプラハ市長の台湾訪問


 国家要人の台湾訪問は、米国だけではない。

 8月30日には、チェコのビストルチル上院議長が、約90人の訪問団を率いて台湾を訪問した。

 チェコは中国と国交を結んでおり、大統領に次ぐ地位の上院議長が台湾を訪問するのは初めての事であり、「1つの中国」の原則を主張する中国による反発と報復は覚悟した上での事である。

 ビストルチル議長は、9月4日までの滞在期間中、台湾の議会にあたる立法院で演説し、蔡英文総統と会談する予定である。

 なお、上院議長の今回の台湾訪問について、チェコのゼマン大統領やバビシュ首相は、チェコの外交方針に反するなどとして反対を表明している。

 チェコでは、ハベル大統領時代は中国とは距離を置いていたが、2013年に就任したゼマン大統領は、中国との関係を重視する姿勢を鮮明にしている。

 中国政府が2015年に「抗日戦争勝利70年」を記念するとして北京で行った軍事パレードに、欧米諸国のほとんどが首脳の出席を見送る中、チェコのゼマン大統領は、EUの加盟国の国家元首として唯一出席した。

 また翌年、習近平が中国の国家主席として初めてチェコを公式訪問してゼマン大統領と会談した際には、ゼマン大統領は「チェコは中国にとってのEUの玄関口となる」などと秋波を送り、中国から多額の経済投資の約束を取り付けた。

 しかしながらその後、中国からは約束されたほどの投資が実現されず、チェコ国民からは不満の声が上がり、ゼマン大統領は窮地に立たされた。中国と深く関われば痛い目に遭うという実例であるが、自業自得であろう。

 一方、チェコの首都プラハ市のフジプ市長は、今回の上院議長の台湾訪問に同行している。

 リベラル政党「チェコ海賊党」のフジプ市長は、2016年に結ばれたプラハ市と北京市との友好都市協定にある「1つの中国」に関する項目を削除するよう求めてきた。

 これに北京市が強く反発し、両市の関係が悪化する中、プラハ市は昨年10月に北京市との友好都市の関係を解消し、今年1月には一転して、台湾の台北市と友好都市の協定を結んだのであった。

 中国に批判的な姿勢を続けることについて、フジプ市長は、「共産主義体制の崩壊後、チェコは人権とリベラルな価値を力強く支援してきた。中国の人権問題に対して沈黙することはできない」と強調している。

 またフジプ市長は、「テクノロジーを重視する台湾との交流はスマートシティーなどのプロジェクトを行っていく上で有益だ」として、台湾との関係強化の意義を強調する一方、中国については「テクノロジーを人々の監視や抑圧のために使っている」として厳しく批判している。

 1968年の「プラハの春」や1989年の「ビロード革命」を体験してきたチェコのプラハ市の人々は、自由と人権の大切さを最もよく理解しているようである。

 米中新冷戦下、中国共産党の覇権主義に追従する諸国と、自由と民主主義の価値観を守ろうとする諸国との間に世界的な分断が生じている中で、各国はどちらの側に立つのかを明確に示す必要に迫られている。

 今回のチェコの上院議長やプラハ市長の台湾訪問は、チェコが自由と民主主義を重視する姿勢を国内外に示すことになった。

 こうしたチェコの例に見られるように、たとえ行政府が親中派で固められていても、立法府の長や自治体の長が独自外交を進めてゆくという道もある。

 以前にも述べた「多元的国家論」の立場に立てば、国家の外交が行政府の一元外交に限られる事にはならない。

 たとえ我が国の政府が、親中・媚中の拝跪外交を推進していたとしても、心ある政治家達が積極的に台湾を訪問するなど、独自外交を展開してゆく事が必要とされる時代なのである。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
〒100-0014
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TEL: 03-5501-3413