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「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













米中「新冷戦時代」の世界


外交の誤りは即「亡国」への道


[2019.10.18]




米中新冷戦の宣戦布告となったペンス副大統領の演説 (2018年10月4日)
PHOTO(C)AP



「香港人権・民主主義法案」の可決


 10月15日、米国下院は「香港人権・民主主義法案」を可決した。この後は、上院本会議で可決された上で、トランプ大統領が署名すれば成立することになる。

 この法案は、香港の人権、民主を損なう政策や行動をとった香港官僚に対して入国拒否などの制裁を行い、香港に対して経済制裁を行うことを定めている。一方、中国は法案を成立させたならば報復措置を執るとしている。

 この「香港人権・民主主義法案」が、共和・民主両党の賛成で可決されたところに、米国の政治的成熟が見られる。

 米下院のナンシー・ペロシ議長(民主党)は、「上下両院の民主党ならびに共和党議員は香港の人々と団結して立ち上がる」「米国が中国の人権問題に対して商業的利益の為に声を上げないとすれば、我々は全ての道徳的権威を失うことになる。そうなれば世界のあらゆる場所で起きている人権問題に発言出来ない事態となる」と強調した。

 このように超党派で対中戦略が一致する事は、数年前までは考えられなかった事であり、時代が明らかに米中の新冷戦体制へと移行した事が分かる。



米中新冷戦の開始


 新冷戦の開始は、2年前に遡る。

 習近平は、2017年10月の第19回中国共産党全国代表大会において、「中華民族の偉大な復興の下に人類運命共同体を構築する」などと、中国による世界征服計画を宣言した。

 即ち、中華思想に基づく冊封体制とマルクス・レーニン主義に基づく世界革命とを融合させた習近平思想が全世界に向けて開示されたのである。

 これに最も危機感を抱き敏感に反応したのは、米ホワイトハウスであった。

 1カ月後の2017年11月7日(=ロシア革命から100周年の日)には、米国のトランプ大統領は「共産主義犠牲者の国民的記念日」を宣言し、「共産主義は、自由、繁栄、人間の命の尊厳とは相容れない政治思想である」と強く非難した。

 そして中国共産党全国代表大会から1年後の2018年10月4日、「新冷戦の宣戦布告」とも言われるマイク・ペンス副大統領の演説がハドソン研究所で行われた。

 2017年10月の中国側からの一方的宣戦に対し、翌年10月に米国側が正式に参戦した形になる。

 かくして世界は、本格的に米中新冷戦体制の時代に突入した。

 さらに今年3月、米連邦議会は超党派で40年ぶりに「現在の危機に関する委員会」を復活させ、「我々は最終的に共産主義体制の性格から生じる問題に対処しなければならない」と決議した。

 去る9月24日には、トランプ大統領は国連演説において、「米国は、支配に飢え他を支配する勢力(=中国)に対抗し、自らが依って立つ伝統や慣習を守っていく」と述べ、米国が決して中国には屈しない事を宣言した。

 こうした米国の対中戦争の一環として、今回の「香港人権・民主主義法案」の議会決議がある。



新冷戦体制を認識出来ない日本政府


 一方、2017年の中国共産党全国代表大会に対して何の危機感も持たず、それ以降も相変わらず中国に媚びを売り、習近平の野望実現に利用されているのが、日本政府である。

 昨年10月、日米分断を画策する習近平の策略にまんまと嵌められて訪中した安倍首相は、日本政府の公式見解として「中国との関係は完全に正常な軌道に戻った」などと表明した。

 しかしながら中国は、その後も連日のように軍艦を尖閣諸島周辺海域や日本領海内に航行させ、我が国に対する主権侵害を試み続けている。また、中国軍機による我が国への領空侵犯は年間600回にも上っている。

 中国による一方的な原状変更を意図した軍事行動が継続的に繰り返されるという関係性の一体どこが「完全に正常な軌道」なのか理解に苦しむ。

 こうした日本政府の対中宥和姿勢は、現代世界がすでに新冷戦体制に移行したという事実に対する認識不足に起因している。

 米国はすでに昨秋のペンス演説以降、中国政府および中国共産党に対する妥協なき戦争状態に入っている。現在進行中の「米中貿易戦争」は、その局地戦の1つに過ぎない。

 そうした中、日本が急速に中国に接近し、中国の世界戦略である「一帯一路」にも「積極的に協力する」などと言い出す始末であるから、米国からすれば、日本の背信行為以外の何物でもない。

 この問題が、現時点で日米関係における大事に至っていないのは、米国にとって安倍政権の背信は、韓国の文在寅政権の背信に比べて遥かにマシだからという理由に他ならない。

 米国としては極東の同盟国を一度に2つも失うわけにいかない為、日本だけは繋ぎ留めておきたいと、気を遣ってくれているだけである。

 日米貿易協定が早期に妥結したのも、米国の対中国戦略において日本が地政学的に重要だからであって、日本政府が有能だったわけではない。

 私達は、民主主義と法治主義に基づき自由と人権を普遍的価値とする社会を守らなければならない。

 これは言い方を変えれば、民主主義や法治主義を否定し自由と人権を脅かす勢力に対しては断固として戦わなければならないということである。

 日本政府には、この認識が完全に欠けている。



過ちを繰り返すなかれ


 1989年の天安門事件の後、世界各国が中国に対して制裁措置を実行していた中、日本政府が真っ先に中国を支援した結果、その後の中国の覇権主義大国化への道を開いてしまった。

 我が国は、この痛恨の過ちを二度と繰り返してはならない。

 しかしながら安倍政権の日本政府は、再び同じ過ちを犯そうとしているのである。

 安倍首相は、今年6月27日夜、G20サミット出席のため来日した習近平と会談した際に、「習主席と手を携えて日中新時代を切り開いていきたい」などと述べた上で、事もあろうに習近平を「国賓」として来春に再来日するよう要請した。

 安倍首相の本心はどうあれ、これで我が国が世界中から誤解されることになってしまったのである。

 国賓として迎えるということは、国家が最高の客人として招待する事であり、日本国が中国の指導者とその体制を全面的に承認した事と同義である。

 すでに6月9日から始まっていた香港民主化デモが佳境に入り、6月16日には香港市民による200万人デモにまで発展していた矢先の27日というタイミングで、このような言動をしてしまう安倍首相の国際感覚の貧困ぶりに唖然とせざるを得ない。

 そもそも世界革命を目指す毛沢東原理主義者を、天皇陛下の賓客として招く事自体が道理に反している。

 中国が香港の一国二制度を骨抜きにし、自由を守る為に戦っている市民に対し人権無視の弾圧を強行しても、日本の政府や国会が何一つ苦言を呈することなく、それどころか中国当局に擦り寄っている日本の姿勢には、香港市民ばかりでなく中国に圧迫されているアジア諸国の人々も失望していることだろう。

 さらに、今年10月1日の中華人民共和国建国70周年記念日には、安倍首相は中国向けに祝賀メッセージを送り、「良い雰囲気の中で日中新時代を切り開く覚悟」とした上で、「日中で世界の課題に取り組み、新たな未来を切り開く」などと述べている。

「史記」「三国志」「孫子」などの兵法や権謀術数に長けた中国としては、米国との新冷戦の最中、せいぜい日本を利用し、且つ日米の離間を図ろうという戦略なのであるが、日本政府はそうした中国に簡単に騙されて、現代版の中華冊封体制に自ら望んで組み込まれようとしているのである。

 このように、日本政府が親中派で固められた外務官僚の言いなりに動かされ、機能不全に陥っているのであれば、超党派で国会議員が動くべきではないだろうか。

 もし日本が政治的に成熟した国家であるならば、香港の自由や人権や民主主義を守る為の何らかの行動を、日本の国会議員達が起こしても良い場面である。

 日本の政治家がたとえ少数でも香港問題にコミットする事は、香港市民にとって明るい希望となるはずである。



習近平の国賓来日を白紙撤回せよ


 中国は、2020年を目標に完全な監視・統制社会を実現し、軍事戦略では2035年までに西太平洋以西を実効支配する事を明確に目指している。

 かつての米ソ冷戦はソ連側の一方的自滅で幕を閉じたが、米中新冷戦では中国が自滅しそうな気配は無く、いずれ米中の軍事的対決は不可避と見られる。

 こうした状況の中で、地政学上極めて重要な位置を占める我が国の選択肢は、自由世界の干城として米国と共に戦うか、あるいは中国の走狗として中国の野望に加担するかの二者択一であり、中立の選択肢はあり得ない。

 米中新冷戦の真っ只中にあって、日本政府が中国の世界戦略に積極的に協力したり、中国と米国とを天秤にかけるような素振りを見せたら、日米同盟が失われる危機に陥る事を肝に銘じなければならない。

 米国からすれば、現在の安倍政権と韓国の文在寅政権とは同類で「似た者同士」に他ならない。

 文在寅政権が米国に対しては同盟国であるような振りをしながら、一方で北朝鮮に肩入れし密かに対北援助をしているのと同様、安倍政権もトランプ大統領には愛想を振りまきながら、一方で中国に接近し一帯一路に協力し、香港を黙殺することで、事実上、米国への裏切り行為をしているのである。

「他人の振り見て我が振り直せ」と言うが、安倍首相は自らの言動や行動が文在寅大統領と瓜二つである事を自覚し、猛省すべきである。

 当面、日本政府が米国をはじめ世界中からの誤解を解く為の最善策は、習近平の国賓来日計画を白紙撤回する事である。

 そして、今後もし中国人民解放軍が香港を武力制圧する事態となった場合は、絶対に習近平を来日させてはならない。

 香港が「第二の天安門事件」となり、それでもなお習近平を国賓来日させたならば、日本の国際的信用が地に堕ちるだけでなく、日米同盟にも亀裂が生じるであろう。

 激動期の外交を誤った国家の末路は亡国以外の何物でもない。

 安倍首相も、本当に憲法を改正したいのであれば、その前にまず国家としての価値観を国内外に行動で示し、同盟国からも尊重される国家になる為の努力が必要である。

 米中の新冷戦の本質は、今後の人類社会の在り方を決する「文明の選択」である。

 即ち、人権重視の自由社会の世界を守るか、それとも完全監視下の抑圧社会の世界に生きるかという究極の選択なのである。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
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