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「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













「対岸の火事」ではない香港情勢


自由を求める香港市民との連帯を


[2019.8.17]




香港中心部で開かれた抗議活動に集まった香港市民
PHOTO(C)共同



終わりなき香港の反政府デモ


 6月に始まった香港の反政府デモは、2カ月以上経った現在もなお激しさを増しており、香港国際空港の占拠などに発展している。

 この香港情勢は前回にも述べたように、台湾の今後の趨勢にも直結する事態であり、「パックス・シニカ」(中国が支配する世界)が実現するか否かに関わる重要問題である。

 事の発端は、今年2月13日に中国本土への犯罪容疑者の引き渡しを可能にする「逃亡犯条例改正案」が香港政府により公表された事にある。5月21日には、中国政府が改正案を支持することを表明した。

 これに危機感を持った香港市民は立ち上がり、抗議の声を上げたのである。

 この条例改正案が成立すると、中国に批判的な言動をした人々も、当局によって恣意的に拘束され、中国政府に引き渡される危険性が生じてくる。香港では、「政治犯は対象外」などという香港政府当局の説明を信じる人などいない。別件逮捕や強制拉致が中国共産党の常套手段である事は、香港においては周知の事実である。

 6月9日に行われた抗議デモには103万人の香港市民が参加していたが、6月16日には200万人に拡大した。

 その後、林鄭月娥・行政長官は「改正案は死んだ」などと発言し、事実上の撤回を表明しているが、香港市民が求めているのは棚上げではなく、法案の「完全撤廃」である。



「第二の天安門事件」となり得る香港情勢


 香港は19世紀以降、アヘン戦争で清国を破った英国によって統治されていたが、租借期間が終わった1997年に中国に返還された。

 その際の返還条件は、香港の高度の自治を認め、特別行政区として中国の社会主義体制とは異なる制度を保証する「一国二制度」を返還後50年間は続けることだった。

 当時の英国をはじめ西側諸国は、中国が改革開放路線や市場経済を通じて経済発展を続ければ、「いずれ中国は民主化する」などと楽観視していた。

 そのため、たとえ「一国二制度」が50年後の2047年に「一国一制度」になるとしても、その頃には中国本土が民主化して、香港側の制度に一元化されるものと予測されていた。

 しかしながら現実は、この22年間で中国の一党独裁体制は一層強化され、対外的には覇権主義国家に、対内的には超監視社会へと移行を遂げてきた。

 今や中国政府は、香港に対しては「中国化」を推進し、市民の自由や権利を制限する方向性を明確に示し始めている。

 香港の立法会は親中派が多数を占める仕組みになっており、行政長官は間接選挙で親中派が推薦して決められている。

 こうした事態に対し、2014年には「雨傘運動」と呼ばれるデモが発生した。これは、行政長官選挙の完全民主化を求める運動であったが、デモ隊が79日間にわたり市街を占拠した為、「市民生活を混乱させた」と香港市民達からも批判され、失敗に終わった。

 今回の香港デモは「雨傘運動の再来」とも言われるが、実際は規模も性質も全く異なるものである。雨傘運動が最大で20万人のデモであったのに対し、今回はその10倍の200万人がデモに参加している。

 5年前の雨傘運動の原因があくまで選挙制度の問題であった為、個人主義的性向の強い香港市民の大多数にとっては「どうでも良い問題」だったのに対し、今回の法改正は「個人の自由と権利」そのものが侵害される性質の問題であるが故に、香港市民達は市民生活を犠牲にしてでも抗議する姿勢を示したのである。

 今回の香港デモは、「雨傘運動の再来」というよりも、むしろ30年前の1989年に北京で発生した「天安門事件の再来」となる事が危惧される。

 最近では中国政府当局は、香港で続く一連のデモについて「テロ行為」として批判を始めている。

 数千人が集まった香港国際空港でのデモでは、8月13日に一部のデモ参加者が警察と衝突し、中国当局はこれを「法的・倫理的な一線を越えた暴力犯罪」と非難した。

 中国当局が香港デモを「テロ」と定義すれば、実力介入の大義名分が成立する。中国政府は何としても香港デモに「テロ」というレッテルを貼り、軍を出動させてデモを鎮圧したいのである。

 中国当局は軍出動の口実を作る為に、デモ隊に変装した工作員を潜り込ませ、デモ行動を意図的に過激化させるなどの策動にも及んでおり、デモ隊によって正体が暴かれた工作員の姿も報道されている。

 衛星映像会社の米マクサー・テクノロジーズは、8月12日に撮影した深圳市のスタジアムの写真を公開した。香港に隣接する広東省深圳市のスタジアムの中には、中国軍の大量の車両と部隊が集結している。

 我が国の報道では、それらは「武装警察」あるいは「武力警察」などと表現されているが、当該部隊は中国人民解放軍の管轄であり、行政の「警察」ではなく、あくまで「国軍」である。

 こうした事態を受け、米国政府は、中国軍部隊が香港との境で行動していることに深い懸念を表明し、香港の自治を尊重するよう求めた。



中国政府に遠慮して何も言えない日本政府


 一方、我が国の多くの評論家や識者の間では、「天安門事件の再来は無い」との見方が根強くある。

 それらの見解の根拠は、「中国は1989年の天安門事件によって国際社会から孤立し、経済制裁を受けた苦い経験があるから、それに懲りて同じ轍は踏まないだろう」といった類のものである。

 だが、果たしてそうであろうか。

「国際社会が注視する中、当局が暴力で市民を弾圧するようなことをするはずが無い」などという考え方が当て嵌まるのは、民主国家の政治家だけである。

 中国共産党においては、「国際社会からどのように見られているか」などという観念は、優先順位が極めて低い。

 専制国家の政治家達は、根本的に私達とは思考回路が異なっている事を知らなければならない。

 共産党にとっての絶対的価値は党と革命の防衛であり、何としてでも党を守らねばならない、となれば、暴力だろうが軍隊だろうが何でもありで、「反革命」の暴徒の殲滅こそが共産党にとっての絶対的正義なのである。

 そもそも中国共産党にとっては、1989年の天安門事件は「成功体験」であった。

 天安門事件の後、中国経済は急速に発展を遂げ、事件から20年後には世界第2位の経済大国にのし上がった。

 2019年6月、中国国営新聞の「環球時報」は、30年前の天安門事件について、「ワクチンとして将来どんな政治的動揺にも対処できる免疫力を中国に与えた」と論説を発表した。

 また同月、中国国防部部長の魏鳳和は、訪問先のシンガポールで、「(天安門事件は)騒乱を治めるための正しい対応だった。その後の中国は安定と発展を享受している」と述べている。

 したがって、「党を守る為なら、たとえ国際社会からどれだけ非難されようと構わない」というのが、中国指導部の本心である。

 こうした意識と価値観で行動する共産党指導部であれば、今回の香港情勢は、再び軍によって武力鎮圧して然るべき事態であるに違いない。

 さもなければ、香港の「暴動」がウイグルやチベットなど、共産党政権に批判的な地域にまで飛び火してしまう危険性がある。

 そればかりでなく、2020年代の「台湾併合」という中国共産党のタイムスケジュールに狂いが生じてしまうことになる。

 中国共産党としては、30年後の革命100周年となる2049年に「パックス・シニカ」を成就する為には、英国との約束である2047年を待たずして、香港の「一国一制度」を大幅に前倒しして実現しなければならないのである。

 その為には、国際的孤立など厭わないのが中国共産党である。

「新長征」のスローガンを掲げて世界征服を目指す中国共産党にとって、国際協調などという概念は存在しない。

 国際的孤立などは、長い年月をかけて「パックス・シニカ」を達成すれば自ずと解決されるが、その前に共産党政権が倒されるような事があれば、彼らにとっては世界の終わりである。

 中国当局が香港を武力制圧するのは時間の問題と言えよう。

 そして、中国が狙う香港の次のターゲットは台湾であり、さらにその次の標的は、彼らが「琉球」と清朝時代の名称で呼ぶ沖縄である。

 武力制圧を目前にした今日の香港情勢は、我が国にとって決して「対岸の火事」ではない。

 現在台湾では、中国による香港政策を目の当たりにして、「一国二制度」の約束など簡単に空手形になることを思い知らされ、「香港を支え、台湾を守ろう」という声が高まっている。

 一方、米トランプ政権は、ここ1カ月間で台湾に対し、100両を超える戦車や対空ミサイルやF16戦闘機の提供を決定し、中国に対する牽制を行っている。

 しかしながら我が国においては、日本政府も国会議員も、誰一人として今回の香港情勢について懸念すら表明せず、あたかも他人事であるかのように無関心を決め込み続けている。

 隣国において市民の自由と権利が侵害されつつあるにも関わらず、中国政府への配慮と遠慮から、香港市民を見殺しにする事が我が国の政治姿勢だとすれば誠に遺憾である。

 思えば、30年前の天安門事件の際の日本政府の対応も同様であった。天安門事件後に国際社会から非難され孤立していた中国に対し、わざわざ日本政府が援助をした結果、その後の中国の覇権主義大国化への道を開いてしまったのであった。

 安倍政権が本当に憲法改正を論議したいのであれば、その前に我が国の価値観と理念を国際社会に向けて明確に意思表示する行動が求められるのではないか。

 我が国が「自由主義の価値観を守る為に断固として戦う」といった国家としての意思を国内外に示す事が出来ないのであれば、改憲の意義ばかりか、国際社会における日本の存在意義さえ失われてしまう事を肝に銘じるべきであろう。











《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




 定款(PDFファイル)




《連絡先

一般財団法人
人権財団本部
〒100-0014
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TEL: 03-5501-3413