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FMラジオ番組
「まきの聖修の、出せ静岡の底力」













全く新しい政治体制が求められる現代社会


液体民主主義とは何か


[2019.3.18]




液体民主主義を唱えるアイスランド海賊党のデモ集会
PHOTO(C)REUTERS



欧州における海賊党の挑戦


 前々回の1月20日付の稿では、多様性(Diversity)とネット民主主義の可能性について述べました。

 このテーマは、来たるべきAI時代における政治体制を考える上でも重要ですので、引き続き論じたいと思います。

 民主主義発祥の地でもあるヨーロッパでは、インターネットを用いた新しい政治の在り方が様々な形で実験されてきました。

 それらの中で、特に興味深いのが、「液体民主主義(Liquid Democracy)」という概念です。

 液体民主主義とは、インターネットを用いた政治的意思決定のシステムで、2010年にドイツ海賊党によって提唱されました。

 海賊党(Pirate Party)とは、「デジタルテクノロジーを用いて政治を変える」ことを目的に、2006年にスウェーデンで発足し、以来ヨーロッパ各国で議席を獲得してきた議会政党です。とりわけアイスランドでは、政権与党に迫る勢いで高い支持率を獲得しています。

 直接民主制は会議や意思決定に膨大な手間と時間が掛かるという問題があり、間接民主制は必ずしも市民の声を代弁し得ないというデメリットがあります。

 こうしたジレンマの中で、直接民主制と間接民主制のそれぞれのメリットを組合せ、新たな民主政治の形として生まれたのが液体民主主義であると海賊党は唱えています。

 液体民主主義では、参加者は誰でも平等に法案を起草し、提案する事が出来ます。そうして提案された法案は、参加者全体に共有され、さらに各参加者は草案の改正案や代替案を自由に提出する事が出来ます。それらの各案もまた全体で共有されることになります。

 ただし、間接民主制の議員とは異なり、「どの程度意思決定に参加したいか」を、参加者自身が自由に決められる仕組みになっています。

 参加者は、自らの得意分野に応じて法案を起草したり、法改正案を出したり、最終法案への賛否を投票することが出来ますが、もし「自分で決められない」あるいは「この問題に関心が無い」という場合には、自分が信用する他の参加者に自分の議決権を委託して代理で投票してもらうことが出来るというシステムです。

 このように液体民主主義は、合意に至るプロセスに万人が参加可能であり、しかもその過程が常時オープンに開示されている事が、液体民主主義の最大の特長です。

 また、提案された草案がネット上の熟議を通じて絶えず変化し続け、改良を繰り返し、最終投票による議決までにかなりの合意が形成されるというプロセスが、液体民主主義において最も重要な事です。

 ただし液体民主主義は、誰もが発言権を持つという特徴の為に、果たして「政党」として存続し得るかどうかは難しいところです。

 液体民主主義を掲げる政党が、右や左といった政治色を打ち出したり、具体的な政策を掲げた場合には、内部分裂や支持者離れを起こす危険性を孕んでいます。

 万人が参加可能なボトムアップ型の政策決定システムであるという普遍性を持つ一方で、個別具体的な政策に言及した途端、「即分裂」というジレンマを抱えることになります。

 事実、スウェーデンとドイツの海賊党は、こうした内部分裂によって凋落しました。

 他方、アイスランド海賊党の場合は、一切の「党議拘束」を撤廃し、党内においても互いの意見の違いを認め合うという原則を立てる事によって、分裂を回避しただけでなく、一般国民から多くの支持を獲得するまでになりました。

 アイスランド海賊党が目指しているのは、あくまでも液体民主主義の政治システムの実現という一点であり、右も左も受け容れようという徹底した姿勢にあります。

 アイスランド国民の多くが海賊党を支持しているのも、海賊党の主張が決して政策レベルの議論ではなく、政体の在り方自体を変えようというメタレベルの問題提起であった為であると考えられます。

 アイスランド海賊党が成功し得た要因は、他国の海賊党のように、瑣末で個別的な政策論で足元を掬われるような愚は犯さなかった点にあると言えます。



ゼロベースで政治の在り方を問い直すべき時代


 私達は、何も諸手を挙げて液体民主主義や海賊党を礼賛しているわけではありません。

 ここで言いたいのは、21世紀の高度情報化社会を迎えるにあたり、国政レベルにおいて本格的に議論されるべきは、個別政策よりもむしろ、政治制度そのものの在り方であるという事です。

 そもそも18世紀にヨーロッパの一隅において成立した政治制度が、未来永劫にわたり有効であり続ける事などあり得ないと言えるでしょう。

 既存の政治の意思決定システムや代議制度や間接民主主義そのものを、根本から問い直すべき歴史的分岐点に差し掛かっているのが、AI時代を迎えつつある現代社会です。

 その意味において、現在の政治状況は30年前とは根底から異なっています。

 30年前の1989年は、ヨーロッパではベルリンの壁が崩壊し、レーガン米大統領とソ連のゴルバチョフとのマルタ会談が開かれるなど、冷戦終結の年でありました。

 当時は、東側諸国の社会主義体制が余りにも非人道的で悲惨であった反動として、東側諸国の人民が西側の自由と民主主義に強い憧れを抱いていた時代でもあり、社会主義神話が崩壊して西側イデオロギーが全面勝利したものと見做されました。

 さらに、社会主義に勝利した西側イデオロギーとは、英国のサッチャリズムや米国のレーガノミクスに代表される新自由主義であるとされ、かつての社会主義の無謬性神話に取って代わるように、やがて資本主義の無謬性が謳われる時代になりました。そうして新自由主義と資本主義の神話は、後のネオコンやグローバリゼーションに継承されていきました。

 しかしながら、かつての社会主義神話が誤りであったように、新自由主義神話も決して万能でなかった事は、その後のリーマンショックやEU危機でも明らかになりました。

 2010年代になって、グローバリゼーションへの反動として欧米諸国に登場したのが「自国ファースト」を標榜するポピュリズムで、こうした自国第一主義は、世界各国において移民排斥運動をもたらしました。

 今年は天安門事件から30周年の年でありますが、「中国民主化」と言われても、今日の欧米諸国の政治状況を見れば、中国の人々が西側の民主主義に憧れを持つことなどあり得ないでしょう。

 この30年間だけでも、西側イデオロギーへの評価は、天と地ほどの落差があります。

 1989年当時とは異なり、現在の中国において無条件で「西側の自由が素晴らしい」などと考えている人は、かなり少数である事が推測されます。

 だからと言って、「一党独裁体制が素晴らしい」などと思う人は、もっと少ないはずです。

 時代が、人間よりもAIが優位に立つ社会へと移行しつつある現代こそ、従来の政治体制や制度そのものを根底から問い直し、人間にとってより良いシステムを真に追求すべき時機であります。

 またそれこそが、AI社会を目前にした現代人の歴史的使命であろうと考えます。













《財団概要》

名称:
一般財団法人 人権財団

設立日
2015年 9月28日

理事長:
牧野 聖修
(まきの せいしゅう)




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